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炭鉱

20世紀、「黒のダイヤ」とまで呼ばれた石炭の役割は大きく、炭鉱は今日の日本を造り上げた一大資源産業でした。中でも軍艦島は国内で最も質の高い石炭を出し、製鉄業に大きく貢献しました。端島炭鉱の役割について、歴史とともに紹介します。

日本の産業革命期を支えた軍艦島・端島炭鉱

炭鉱内
写真提供:軍艦島デジタルミュージアム
https://www.gunkanjima-museum.jp/

端島炭坑は、高島炭坑の技術を引き継ぎ、三菱により本格的な近代炭坑として開発が進められた海底炭鉱です。炭層が島の真下にあったため、海面下1,010㍍の坑道を掘削。炭層に沿って石炭を掘り進め、掘り出した石炭は巻上機で地上に運びます。

坑員は、気温30~36℃湿度90%と暑くかつ炭層が40~60度と急傾斜で機械の導入が難し以坑内で、多くの作業を人力でこなしました。8時間3交代24時間稼働し、軍艦島は夜も煌々と明るかったそうです。

炭鉱員
写真提供:軍艦島デジタルミュージアム
https://www.gunkanjima-museum.jp/

採れた石炭は、第二坑横にある選炭場から貯炭場へベルトコンベアで運ばれました。貯炭場から石炭運搬船に積み込まれ出荷。硬(ボタ)と呼ばれる質の悪い石炭や岩石は、居住区のある西側海岸へ、ベルトコンベアを通し捨てていました。採炭から精炭まで、この小さな島で行われていたのです。

日本と炭鉱の歴史

炭鉱は、地底に眠る石炭を採掘する拠点(鉱山)を指します。炭鉱が集中する地域を「炭田」と呼び、国内では北海道と九州に集中しています。

日本の炭鉱は、アメリカやオーストラリアの大規模炭鉱と比べて地層構成が複雑なため、石炭は地下の深部にあることが多いのが特徴。そのため、炭鉱マンたちは、何kmにも及ぶ坑道を掘り採掘していました。その労働条件は悪く、メタンガスや粉塵による爆発事故・落盤などが炭鉱内で多発し、多くの殉職者を出してきた歴史があります。

石炭採掘は、明治時代から活発化します。江戸時代は、地表に露出した石炭の掘り出しや狭い穴を通して採掘を行う「狸掘り」の技術を使い、薪の代用とされる程度でした。

ですが、明治維新をきっかけに西洋技術が日本へ流入すると、炭田地域の近代的開発が急速に進んでいきます。炭鉱は、日本の近代化を支える基幹産業へ発展しました。さらに規模も拡大し、掘削のための技術が開発されることに。技術は現在でも多くの産業で生かされています。

炭鉱の歴史は、昭和に入り衰退を迎えます。燃料などに使われた石炭は、1931年の満州事変や1941年の太平洋戦争などの戦争とともに増産と低迷を繰り返します。

戦時中の1940年には、国内で最高の出炭量を記録。戦後は石炭を増産する「傾斜生産方式」を実施し、第二次世界大戦敗戦からの国内産業の建て直しに貢献しました。

ですが、傾斜生産方式は過剰産出を招きます。中小の炭鉱は、大規模炭鉱への合併や閉山を強いられました。さらに、1950年代の石油の大量輸入(エネルギー革命)や二度のオイルショック、コスト面で外国産のものに太刀打ちできない、採掘現場の遠隔化などの問題が発生。結果、1960年代を境に衰退、20世紀末にはほとんどの炭鉱が閉山しました。

石炭がもたらした恩恵

石炭とは、一言で表すと「太古の植物が化石になり燃える塊になったもの」。具体的には、枯れて地表に倒れた植物が腐敗する前に地中に積み重なり、ゆっくり時間をかけて退化した物質の総称です。

日本国内でも日本書紀に「燃える石」伝説としての記述もありますが、記録に残る石炭の発見は、1400年代の中頃。三池炭鉱で知られる今の福岡県大牟田市で、農民が発見したものだったと言われています。

現在でも国内には、200億トンの石炭が埋蔵されていると言われ、採掘可能な石炭は約8.5トン。その約8割は九州にあります。石炭の生成時間は、海外に比べて2〜3億年も短いですが、火山の地熱などで炭化速度が早く、古い時代の石炭にも匹敵します。

当初、石炭は主に個人で使う燃料に活用されていました。やがて産業が発展し、必要なエネルギーを石炭の火力に頼るようになります。そのため、石炭への需要は急速に向上し、日常から産業まで重要な資源になりました。

石炭は、他の燃料に比べて埋蔵量が多く、かつ石油のような一地域への偏在がありません。全世界で幅広く採掘が可能なエネルギー資源のため、蒸気ボイラー用燃料として発電・製鉄所・各種工場燃料に使われています。ちなみに、石油は50年で枯渇が懸念されていますが、石炭は112年の採掘が可能。

石炭の種類は、一般には炭化の度合いで分類されます。最も炭化度が進んだ「無煙炭」と次に炭化度が進んでいる瀝青炭(れきせいたん)は、別名「黒いダイヤ」と呼ばれ、日本を支える大切なエネルギー源です。

軍艦島で産出される石炭は、瀝青炭の中でも最も火力が強い「強粘結炭」。燃焼力が強く、製鉄の際に必要なコークスの原料としても使われます。強粘結炭は、石炭の中で最も高価で取引されるため、軍艦島へと人を集め続けた一因であるとも言えますね。

海の状況や悪天候で上陸できないことも多い中、平均上陸率94.7%(※)と高い上陸率を誇る軍艦島コンシェルジュさん協力のもと、軍艦島の上陸ツアーに参加したレポートを紹介しています。ツアーの見どころはもちろん、軍艦島の魅力を余すところなくお届けします!

※平成23年度~平成30年度の上陸実績

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